#11 collagenous colitisとPPI
近年、Helicobacter pyloriの除菌治療普及により、胃十二指腸潰瘍患者は減ってきました。一方、Helicobacter pylori感染者の減少、生活習慣の欧米化、肥満、高齢人口の増加などにより、胃食道逆流症(GERD)患者は増加してきています。これに対し制酸剤は症状を抑える効果がありますが、なかでもプロトンポンプインヒビター(PPI)は効果が強く、難治性GERDに対して長期投与も可能となり、使用される機会が増えています。国内における2011年の医薬品市場では、PPI主要3剤が売り上げベースでトップ30に入っており、総売上高は1771億円になっています。
ところで、日常診療でPPIを投与していて、「便が緩くなる」という患者さんを診たことがある方も少なくないかと思います。数年前から、PPIとcollagenous colitis(CC)いう下痢を起こす疾患との関連が話題になることが多いので、(最新のtopicsではありませんが)簡単に書いてみたいと思います。
CCは、血便を伴わない慢性水様性下痢を主訴とし、大腸内視鏡所見はほぼ正常であるが、生検で大腸被蓋上皮下に特徴的な膠原線維帯(collagen band;CB)の形成と粘膜固有層に単核球浸潤を認めることを特徴とします。同様の症状を呈する、lymphocytic colitis(LC)とは類縁疾患で、両疾患を合わせてmicroscopic colitisといわれています。
欧米では1970~80年代から、慢性下痢の主要な原因疾患と認識され、内視鏡所見がなくても生検を行うよう推奨されています。本邦ではここ数年でCCの報告例が増え、認知されてきていますが、LCの報告例は少ないようです。
CCの年間罹患率は、欧米では人口10万人あたり0.2~6.2人で、中高年女性(60~70歳代)に多い疾患です。本邦では、やはり60~70歳代に多いですが、欧米よりは男性の罹患率が高くなっています。
病因は、いまだ特定されず諸説ありますが、薬剤に起因するものや自己免疫性疾患などが関与するのではないかとの報告があります。薬剤性起因の原因薬剤としては、ランソプラゾール(LPZ)、非ステロイド性鎮痛剤(NSAIDs)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、アカルボース、アスピリン、チクロピジンなどがあります。下痢の原因としては、CBが腸管内の水分再吸収を障害しているという説があります
臨床像は、石原らの16例のまとめでは、平均年齢75±6歳、男女比5:11、全例で5±2行/日の水様性下痢(1例は血便)がありました。半数に体重減少(6.3±4.1kg)を認めるも、腹痛・嘔気・食欲不振は認めず、関連薬剤はLPZ 13例、ジクロフェナクナトリウム 2例、ロルノキシカム 1例で、平均内服期間は208±157日でした。
内視鏡所見があまりないのが特徴とされていましたが、報告例が増えるにしたがい、内視鏡所見(血管網増生・走行異常、粗造・顆粒状粘膜、線状縦走潰瘍・瘢痕、発赤など)を有する頻度が高くなってきています。しかし、内視鏡所見が、組織学所見や臨床経過と相関するかは、今後の症例の積み重ねが必要なようです。
治療は薬剤中止で改善することが多いですが、薬剤中止でも改善しなかったり、蛋白漏出を伴う難治例では、潰瘍性大腸炎などで用いる5-アミノサリチル酸製剤やステロイドを使用することがあります。本邦では、予後は良好のことが多いとされています。
私も、難治性下痢で、大腸内視鏡と組織検査を行い診断できた患者さんが2例いますが、いずれもLPZを中止することですみやかに症状改善し、1例は、改善後の組織検査も行い、CBの菲薄化を認めています。
PPIでは、LPZの報告例が多いですが、ほかのPPIでの報告も散見されているので注意が必要と思われます。
CCに関わらず、難治性下痢症でお困りの時は、大腸内視鏡検査を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献
堀田欣一 他.collagenous colitisの疫学と病因 胃と腸 44:1966-1972, 2009
石原裕士 他.collagenous colitisの16例 胃と腸 44:1983-1994, 2009