#42 胃X線検診のための読影判定区分
胃X線画像読影については、これまで標準的な管理方法が示されておらず、検診施設や団体が独自に設定した読影基準や管理区分が用いられおり、胃がん検診精度管理の問題点となっていました。このため全国で使える簡便な読影基準の策定が求められ、日本消化器がん検診学会が2016年に「胃X線検診のための読影判定区分」を作成しました。
南江堂発行の「胃X線検診のための読影判定区分アトラス」から引用して概要を紹介します。
カテゴリー | カテゴリーの説明 | 管理区分 |
---|---|---|
1 | 胃炎・萎縮のない胃 | 精検不要 |
2 | 慢性胃炎を含む良性病変 | |
3a | 存在が確実でほぼ良性だが、精検が必要な所見 | 精検該当 |
3b | 存在または質的診断が困難な所見 | |
4 | 存在が確実で悪性を疑う所見 | |
5 | ほぼ悪性と断定できる所見 |
<カテゴリー1>
H.pylori未感染相当胃を意味しており、低リスク群として扱う。H.pylori未感染相当胃とは、おおむね3〜4mm幅の細く立ち上がりのなだらかな丈の低い皺襞が滑らかに蛇行もしくは直線状に走行し、胃体下部小弯側まで皺襞が広く分布、粘膜面は明らかな胃小区が認められない滑らかな平滑型粘膜(ベルベット様またはビロード様)を満たすものである。
H.pylori未感染胃に生じた胃底腺ポリープ(FGP)や隆起びらん(タコイボびらん)は異常なしと判断してカテゴリー1でよいが、その基準の設定は各施設の対応でよい。
<カテゴリー2>
所見の描出が良好で精検不要な良性病変と診断可能なもの。疾患名としては胃潰瘍瘢痕、十二指腸潰瘍瘢痕、胃ポリープ(主として過形成性ポリープ)、胃粘膜下腫瘍(SMT)等が含まれる。胃底腺ポリープも大きさや形態によってはカテゴリー2としてよい。
局所病変を伴わないが胃炎・萎縮ありと判定された場合は慢性胃炎としてカテゴリー2と診断する。H.pylori感染胃炎(現感染、既感染)のほかA型胃炎も含まれる。問診で除菌歴が確認された場合は胃炎・萎縮がなくてもカテゴリー2とする。
手術胃は全摘の場合を含めてカテゴリー2とする。残胃に所見がある場合は該当するカテゴリーにする。
<カテゴリー3a>
存在が確実でほぼ良性だが精検が必要なもの。悪性否定と要医療という意味が含まれる。
無駄な精検を避けるためには、前歴との比較読影を活用すべきだが、初回受診者など、良性病変であってもカテゴリー3aと評価するのはやむを得ない。
対策型検診の場合、要医療や経過観察といった管理区分は設定しないため、こうした管理が必要な場合はカテゴリー3aとするのが妥当である。開放性潰瘍で治療が必要と判断される場合や、過形成ポリープなどで切除などの治療が望ましい場合、2cmを超えるようなSMTで精密検査が望ましい場合など、カテゴリー3aとする。
<カテゴリー3b>
悪性を否定できない何らかの所見があるが、病変が確実に存在するとは判断できない所見(存在診断が不確実)や、病変存在は確実だが良悪性判断が困難な所見(質的診断が不確実)につけるカテゴリーである。
病変存在が確実な場合は、できるだけカテゴリー3aまたは4をつけて安易に3bとしない。少しでも悪性を疑う場合は積極的にカテゴリー4をつける。
画質不良で読影不能である場合にはカテゴリー3bとして精検扱いにしてよい。
胃角開大や辺縁不整などの間接所見のみで精検該当とする場合、病変存在は不確実なのでカテゴリー3bとする。
<カテゴリー4>
病変の存在が確実であり、悪性を疑うものはカテゴリー4である。がんに対する特異度が低くても感度を重視し、少しでも悪性所見が見い出せるのであれば、所見の描出が不十分でも積極的にカテゴリー4とする。
過形成性ポリープか0-I型腫瘍か迷う病変、良性潰瘍か0-III + IIc早期がんか迷う病変は、安易にカテゴリー3bとせずに、積極的にカテゴリー3aまたは4とする。
胃腺腫は良性病変であるが、悪性化のポテンシャルが比較的高い腫瘍と考え、胃腺腫を疑い精検該当とする場合はカテゴリー4とすべきである。既に診断がついている胃腺腫で精検不要とする場合はカテゴリー2であり、“胃腺腫“などと通知する。
<カテゴリー5>
明らかな悪性所見を認め、スクリーニング画像からもほぼ悪性と断定できる場合はカテゴリー5とする。
進行がんに限らず、早期がんでも明らかな所見があればカテゴリー5としてよい。
カテゴリー5はがんに対する感度が低くても特異度を重視するため、カテゴリー5と判定される頻度は極めて低くなるのはやむを得ない。
カテゴリー | 1 | 2 | 3a | 3b | 4 | 5 | |
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胃炎や萎縮の所見がない場合 | ◎ | – | – | – | – | – | |
胃炎 | 急性胃炎(NSAIDs,LDAなど) | – | ◎ | △ | – | – | – |
慢性胃炎(A型胃炎など) | – | ◎ | △ | – | – | – | |
H.pylori感染胃炎(除菌後を含む) | – | ◎ | △ | – | – | – | |
潰瘍 | 開放性潰瘍(胃・十二指腸) | – | – | ◎ | ◯ | – | – |
潰瘍瘢痕(胃・十二指腸) | – | ◎ | △ | △ | – | – | |
ポリープ様病変 | タコイボ様びらん(隆起びらん) | ◎ | ◯ | △ | – | – | – |
胃底腺ポリープ | ◎ | ◯ | △ | – | – | – | |
過形成性ポリープ | – | ◎ | △ | – | – | – | |
ポリポーシス(FAPなど) | – | ◯ | △ | – | – | – | |
迷入膵(異所性膵) | ◯ | ◯ | △ | – | – | – | |
炎症性線維性ポリープ | ◯ | ◯ | △ | – | – | – | |
嚢胞・粘膜下異所腺 | ◯ | ◯ | – | – | – | – | |
粘膜下腫瘍 | 2cm未満かつ半球状・表面平滑 | – | ◎ | △ | – | – | – |
2cmを超えるもの | – | – | ◯ | – | ● | ● | |
いびつな形状または表面不整有 | – | – | ◯ | – | ● | ● | |
増大傾向有り(大きさ不問) | – | – | ◯ | – | ● | – | |
良性腫瘍 | 胃腺腫 | – | ◯ | – | – | ● | – |
悪性腫瘍 | 癌・カルチノイド(食道も含む) | – | – | – | ◯ | ● | ● |
リンパ腫(MALTomaを含む) | – | – | – | ◯ | ● | ● | |
転移性腫瘍 | – | – | – | ◯ | ● | ● | |
異常胃形 | 手術胃(ESDは除く) | – | ◎ | – | – | – | – |
回転異常 | ◯ | ◯ | – | – | – | – | |
高度変形胃 | ◯ | ◯ | △ | – | – | – | |
食道・胃静脈瘤 | – | – | ◎ | ◯ | – | – | |
その他 | 憩室 | ◎ | – | – | – | – | – |
裂孔ヘルニア | ◎ | – | – | – | – | – |
◎:第一に推奨されるカテゴリー
◯:選択範囲として許容されるカテゴリー
△:内視鏡による確認を要する場合
●:悪性確信の程度に応じて選択
【文献】
胃X線検診のための読影判定区分アトラス,日本消化器がん検診学会・胃がん検診精度管理委員会・胃X線検診の読影基準に関する委員会編、南江堂,2017