#12 風疹~今や成人の感染性疾患~
先天性風疹症候群発生を防ごう
「風疹」に罹った人は、本年(2013.1.1から)早くも1万人を超えた。また、「先天性風疹症候群」も11人報告された(25年6月20日現在)。大変な事態である。なぜこのように問題視されるのか
以前は幼児から学童期に多く、通常は「三日はしか」ともいわれるように、多くは問題なく経過したが、時に大流行時、痙攣や意識障害が出現した「風疹脳炎」合併例を経験した事もあった。しかし、幼児期に予防接種が行われるようになり小児科ではあまりお目にかかれなくなっている。今や成人の感染症として重要である。
風疹が重要視されるのは①風疹抗体価が低い妊娠初期の妊婦が罹患すると、胎児に「先天性風疹症候群」(CRS)発生リスクがある事。その数は決して多くないが、生まれてくる児に各種障害を残すため問題となる。先天性風疹症候群で生まれる児をできるだけ防がなければならない。
②近年風疹罹患患者の大部分は成人である事、それも働き盛りの男子が多い事。これらの風疹罹患を防ぐ必要がある。③罹患患者数の増加を止めるには風疹抗体価を上昇させる事でありそれには予防接種である。未接種者または罹患不明者は風疹の予防接種をして、風疹流行を止める必要がある。
国立感染症研究所の統計によると、風疹全数報告が始まった2009年全国で報告された年間の風疹罹患者は147人、2010年に87人、2011年に378人、2012年には2,392人と増加し、2013年は急激に増加し第18週(4月中旬)~21週(5月末)にかけて週に800人を超える患者数となり6月末現在累積数1万人を超えた。6月に入りやや減少傾向であるがまだ週600人前後の患者が報告されている。大阪、東京、神奈川、兵庫、愛知、鹿児島が多い。患者の性別では男性:女性=3.3:1。年齢では男女共90%が20歳以降の成人、女性は特に妊娠率が高い15~39歳までが70%であった。罹患者は風疹ワクチン接種不明者と未接種者が男性95%、女性88%であった。
風疹は今まで一般に春先から初夏に流行し夏には収束していた。本年は2月頃から急に増加し6月に入りピークは過ぎたようであるがまだまだ注意が必要である。
ちなみに長野県での発生状況は年間2010年:0、2011年:1、2012年:12名、2013年:50名(第25週までに累積)と本年はダントツに増加している。
風疹の臨床的特徴(国立感染症研究所資料)
「飛沫感染により感染し、潜伏期は通常2~3週間である。冬から春に流行する。症状は、小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身、特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節腫脹は発疹出現数日前に出現し、3~6週間で消退する。発熱は38~39℃で、3日程度続き、皮疹も3日程度で消退する。脳炎、血小板減少性紫斑病を合併することがある。 妊婦の風しんウイルス感染が、先天性風しん症候群の原因となることがある。」このように良くまとめられているが、これに筆者なりに調べて解説を加える事にする。
<感染経路>:口や鼻からウイルスが入る経気道飛沫感染
・・職場内、家族内感染が多い。大勢の人が出入りする場所も危険。 潜伏期は2~3週で平均16日ほど
<症 状>:皮疹、軽微な発熱、リンパ節腫大が3主徴であるが 、頭痛、倦怠感で始まることもある。
患者の受診動機の多くは、「リンパ節腫大」または「発疹」である。
診療のポイントは、*後頸部、耳介後部のリンパ節腫脹である。リンパ節腫脹は全例に現れるわけではないが他の発疹性疾患と鑑別するために比較的有意であり、しかも発疹が出現する数日前から出現する。リンパ節腫脹は発疹期に著明となり3~6週で消える。多くは頸部、後頭部、耳介後部で小豆大からえんどう豆大で比較的柔らかでやや圧痛を伴う事が多い。リンパ節腫大のみの無疹性風疹も20~40%あるとの報告もある。・・・耳の後ろのリンパ節腫大に注意!
*発疹の特徴:まず顔面、耳の後ろから出て、頭部・躯幹・四肢に広がり、この順に消褪して大体3日前後で消失する事が多い。発疹は小斑状紅斑であまり融合しない。しかし、成人の重い例は融合傾向がある。また色素沈着や落屑は通常無いが、重い場合は軽度見られる。通常かゆみは無い。・・・3日前後で消失する発疹!
*発熱:高熱は少なく、37~38度代で経過し40~60%は無熱で経過。発疹と同じ頃出る。2~3日で解熱。倦怠感、頭痛、咽頭痛、時に結膜充血を伴う例もある。・・・発疹前後で出現するあまり高くない熱!
<検査所見>:白血球減少、核左方移動、比較的リンパ球増多、異形リンパ球が増加する。
<合併症> 成人は合併症を発症すると症状が重くなる傾向ある。
血小板減少性紫斑病(1/3,000〜5,000人):発疹が出てから2~14日で発症し2~8週持続する。急性脳炎(1/4,000〜6,000人):発疹出現後2~7日に頭痛、痙攣、意識障害で出現。予後はおおむね良好。関節炎(成人5〜30%、女性に多い傾向)。指、手、膝の関節が痛むことが多く関節の症状は、発疹出現と同時か、やや遅れて出現し、そのほとんどは一過性で1ヶ月以内に消失する。
*東京都感染症情報センター(2012年~2013年16週)の報告によると、東京都に報告された合併症の発生割合は、脳炎が0.21%、血小板減少症は0.38%と、どちらも通常言われている合併症頻度の10倍以上となっており注意が必要である。
<他への感染性>:ウイルス排泄は発疹出現前後約1週間程度といわれる。(ちなみに学童出席停止期間は発疹消失まで) このように実際は、発疹が出る1週間前からウイルスは咽頭、便、尿などから排泄される。従って発疹前は多くの人は罹患に気づかない。リンパ節腫大が初診としても風疹の確診できない。このように風疹患者の隔離は実際は困難である。
従って、妊娠初期の妊婦は、罹患者には2週間くらい接しないほうが良いが患者の発疹出現前1週間以内に接触し感染している可能性もあり隔離は難しい。
・・・罹患者の隔離や患者から感染予防することは実際には難しい。
<鑑別すべき疾患>
A群β溶連菌感染症(しょう紅熱)、麻疹、アデノウイルス感染症、伝染性紅斑、伝染性単核症(EBウイルス感染症)(紙面の関係で詳細省略)
<確定診断>:①発疹出現から28日以内の血液中風疹IgM特異抗体検出②ペア血清(発疹期とその後7~10日頃を用いてHI抗体測定し4倍以上の上昇。
風疹は全医療機関で届出感染症である。(平成20(2008)年1月1日から)
*十分高い抗体価を保有する事であり、風疹に罹患した事が不明確であったり、風疹予防接種がしてなければ、風疹ワクチン接種が望ましい。
風疹予防接種行政の歴史を振り返ると
日本の風疹の定期予防接種は、1977(昭52)年に女子中学生(12歳~15歳)を対象として始まり、1994年(平6)まで継続した(2013年現在約36~51歳の女性)。このため、この年齢群で男女差が大きく、女性は概ね95%前後の高い抗体保有率であったのに対して、特に30~40代の成人男性に抗体保有率が低く、本年の罹患者増加につながっていると思われる。彼らが風疹の流行地から仕事や観光で出かけて感染し、帰国後に家庭や職場でうつしてしまう恐れがある。具体的には1987(S62)年以前生まれ(26歳以上)の男性と、制度移行の谷間となった(集団接種から個別接種に移行した)1979(S54)~1987(S62 )年生まれ(26歳~34歳)の女性は予防接種を受けていない割合が高く、今年度患者の多くがこの年代である。
抗体価検査で予防接種が必要といわれる抗体価:国立感染症研究所のQ&Aでは、HI抗体価が16倍以下の場合としている。この値はEIA法(デンカ生研)による抗体価に換算すると8.0未満となる。
風疹抗体を十分持っていない妊婦が風疹に罹ると妊娠1か月(4週頃まで)で50%、2か月(9週頃まで)で30%、3か月(13週頃まで)で20%、4か月(18週頃まで)で5%のCRS発症率であり、妊娠20週まで風疹罹患妊婦からの胎児感染リスクが高い。(中村、1985)
流行期における1年間の10 万出生当たりのCRSの発生頻度は、米国で0.9 〜1.6 、英国で6.4 〜14.4 、日本で1.8 〜7.7 である。成人でも15%程度風疹は不顕性感染(症状が出ない)があるので、母親が無症状であってもCRS は発生し得る。
*臨床症状
CRS の3 大症状は先天性心疾患、難聴、白内障。先天性心疾患と白内障は妊娠初期3 カ月以内の母親の感染で発生するが、難聴は初期3 カ月以内のみならず、次の3 カ月の感染でも出現する。3 大症状以外には、網膜症、肝脾腫、血小板減少が見られることあり、さらに、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球などが報告されている。
*CRS の診断:上記の症状が出生後見られる事に加え、確定診断としてウイルス遺伝子の検出、臍帯血や患児血からの風疹IgM抗体の検出がある。IgM抗体は、胎内感染の結果、児で産生されたもので、その存在は胎内感染の証拠となる。また、CRS患児から、出生後6 カ月位までは高頻度にウイルス遺伝子が検出でき、検体として検出率の高い順に、白内障手術により摘出された水晶体、脳脊髄液、咽頭拭い液、末梢血、尿などがある。
CRSは平成11(2008)年から第4 類感染症の全数届出疾患である。診断した医師は診断から7 日以内に保健所に届け出る必要がある。
*予防
妊娠を希望する女性でCRS予防には、十分高い風疹抗体価を保有することである。母子手帳などで風疹予防接種歴の証明の無い場合は風疹抗体価を測定し、低ければワクチン接種でHI抗体価16倍以上(EIA法で抗体価8.0以上)とするのが望ましい。抗体は接種後2週から上昇し4週頃ピークになるという。
妊娠中のワクチン接種は避ける。しかし、たとえワクチン接種後妊娠が判明しても、過去に蓄積された外国のデータによると障害児の出生は1 例も報告されていないので、妊娠を中断する理由にはならないとされている。
風疹ワクチン接種は妊娠の可能性のない月経中や出産直後の時期に行い、2ヶ月間の避妊を原則とする。
風疹流行を阻止し、風疹罹患予防する究極の目的は、「先天性風疹症候群」で生まれる児を減少させる事です。これは妊婦だけの問題ではなく、周囲に風疹罹患者がいないことが大切です。近年成人風疹特に働き盛りの男性に増加している事を再認識し、妊婦のみならず周囲の人たちが風疹に罹らないようにするしかありません。
風疹を確定診断する事は決して簡単ではありません。また風疹患者の隔離も困難です。罹患防止には風疹ワクチン予防接種が最適です。
現在は風疹、麻疹予防接種は幼児期に2回(Ⅰ期、Ⅱ期)定期接種が施行されているので十数年後は成人の感染者も減少すると考えられます。それまでは成人が認識を高め積極的に風疹ワクチン接種などで防衛する必要があります。この際、医療機関も行政も住民も風疹に対してさらに認識を深めて予防接種の機会を逃がさず積極的に風疹対策そして「先天性風疹症候群」発生予防に取り組みたいものです。