診療ノート

#16 RSウィルス感染症

《RSウィルスとは?》
RS(Respiratory Syncytial)ウィルスとは、パラミクソウィルス科・ニューモウィルス亜科・ニューモウィルス科に分類されるウィルスです。エンベローブを有するRNAウィルスで10個の遺伝子から出来ています。

《疫学》
毎年冬季に流行し、母体移行抗体の存在する乳児期早期にも感染が成立するのが特徴です。2歳までにはほぼ100%初感染を受けますが、そのうち30~40%が下気道炎を発症し、1~3%が重症化して入院治療を要すると言われています。わが国でも毎年2~3万人の児が入院していると推定されます。

《病態生理》
中心的病像は細気管支炎ですが、これにはウィルスによって惹起された、種々の炎症性サイトカイン・ケミカルメディエーターが関与しています。気管支喘息に関与するロイコトリエンもそのうちの1つです。

《臨床像》
接触あるいは飛沫により4~7日の潜伏期を経て発症します。
細気管支炎:咳嗽・鼻汁などの上気道症状が2~3日続いた後に、呼気性喘鳴・呼気の延長・多呼吸などが出現します。重症例ではチアノーゼも認めます。
無呼吸:生後1ヶ月未満の児に認められる事が多く、下気道炎まで進行しなくても、咳嗽・鼻汁だけの段階で頑固な無呼吸を呈する事があります。
ADH(抗利尿ホルモン)分泌異常症候群:胸腔内圧の上昇によって静脈還流や肺血流量が減少した結果、ADH分泌が増加する事によって発症します。低ナトリウム血症を生じます。

《診断・検査》
RSウィルス抗原検査キッドにより10~15分程度で判定が可能です。感度は80%以上で特異性はほぼ100%です。ただし、1歳以上は保険適応となりません。

《治療》
外来では気管支喘息とほぼ同じ治療となります。入院が必要な重症例では酸素投与が必要となる事も珍しくありません。ステロイド剤の効果はまだ不明です。ロイコトリエン受容体拮抗薬は一時その効果が期待されましたが、重症例には無効です。

《予防》
ヒト化抗RSウィルス-F蛋白単クローン抗体(シナジス○R)が唯一の予防薬です。ハイリスク児は流行期の間月1回の筋注投与を継続します。この薬は大変高価で、保険適応にはなりますが、自己負担額は1シーズン10万円前後です。