診療ノート

#14 鼻出血

鼻出血(いわゆる鼻血)は、「鼻をかんだ時にティッシュペーパーに血液が付いていた」ということも含めるとかなり多くの方が経験したことがあるのではないでしょうか。しかしながら鼻出血について正しく理解されている方は少ないように思われます。

まず、正しく理解していただくための第一歩として鼻出血とは鼻腔と呼ばれる部分からの出血であるということ。さらにそのほとんどが「鼻中隔」という鼻腔を左右に分ける隔壁の前方にある毛細血管網キーゼルバッハ部位からであるということです。
この部位の一部前方は鏡を使えば自分自身でも確認することができ、また指を入れて触ろうと思えば触れるところですが指は決していれないでください。外来を受診される患者さんの中には「鼻出血は脳から出ているのではないか」といわれる方がいらっしゃいますが、それは頭部外傷などにより頭蓋骨の損傷をした場合以外にはありえないことですから流暢に耳鼻科など受診している場合ではなく脳神経外科にて適切な処置をしていただく必要があります。
また、「鼻血がでて困るから焼いてくれ」と言って受診される方がいらっしゃいます。しかしそのような方の多くが受診時にはすでに止血しており止血処置そのものが不必要であったり、焼灼処置以外の方法の方が適切な場合もあります。

次に、なぜ出血するかということです。これは我々耳鼻咽喉科医の怠慢と言われそうですが鼻出血の多くが原因不明(特発性)なのです。言い訳をする訳ではないですが昔のギャグ漫画にあったように何かに興奮すると鼻血が出るというのがこの類であり多くの場合が先ほどのキーゼルバッハ部位からの出血で軽度且つその場限りであるため我々耳鼻科医を受診されてはいないのではないかと思われます。
もちろん原因のわかっているものもあります。外傷つまり顔面打撲や鼻の手術・いわゆる鼻ほじりなど指先による鼻粘膜の損傷です。特に小児においては「朝起きたら枕が血だらけだったんです」と言ってびっくりして外来受診される方がいらっしゃいますが、おちついてその子の指を確認してみると鼻をほじって指先爪先に血液の痕跡が残っている場合が多いのです。
急性鼻炎やアレルギー性鼻炎などで鼻粘膜に炎症があると鼻をかんだ時や鼻の入り口にある痂皮(いわゆる鼻くそ)をとった時に出血したりします。高血圧や肝硬変・腎臓疾患・心臓疾患、抗凝血薬の服用、血液疾患や鼻の腫瘍などはキーゼルバッハ部位からの出血ではなく出血部位の確認ができなかったり、出血部位が複数あったりして止血が困難であり入院加療が必要となることがあります。
鼻出血があるとパニックになり大量に出血しているように感じますが、鼻汁と一緒になって出てくるので実際の出血量はそれほど多くはないものです。また、「鼻血が出て止まらない」と言ってご家族ともども慌てて受診される方がいらっしゃいますが、慌てることにより興奮し、またこの冬の時期は寒冷刺激によっても血圧が上昇するため出血量が増加してしまい止血困難となります。
そのため当院を受診される患者さんにおいても血圧の高い場合は、処置することによりさらに血圧が上昇する可能性があるため、ある程度血圧が下がるまでは後述の止血法を実践いただきながらお待ちいただいております。実際病院に着いたという安堵感により血圧が安定し、また正しい止血法により診察時には止血している場合も多く認められます。

最後に鼻出血の止血法についてです。前述のように鼻出血の多くが鼻中隔の前方からであるためまず座った状態で少し前かがみになり鼻翼(小鼻)の根元を左右からつまんで圧迫することです。
この時気を付けなければいけないのが、
①左右両方の鼻の穴がふさがるようにしっかりとつまむこと。出血している方の鼻だけとか鼻の真ん中あたりを圧迫していましたという方がいますが、鼻の先端部は軟骨であるため止血するには両方からきちんと圧迫することが必要となります。
②健康な方で5~10分間位、高血圧や抗凝血薬内服中の方は20~30分間位は圧迫を緩めないこと。
③のどにまわってきた血液は必ず口からだし飲まないようにすること。血液を飲み込むと嘔吐することがあるためです。
④詰め物をする場合は、鼻出血している患者さんご本人の小指の第二関節までの太さと長さの脱脂綿とすること。綿球では次々に詰め込んでしまい鼻の奥まで押し込んでしまったり、ティッシュペーパーは丸めると角が固くなり鼻の粘膜をかえって傷つけてしまう場合があります。以上のことに注意しながら止血しても止血しない場合は医療機関を受診してください。

乾燥や風邪・鼻炎などにより鼻をかむ回数が増え鼻出血をおこしやすい季節です。落ち着いて行動し正しい止血法を行えば割合簡単に止血可能であることを理解していただけたならば幸いです。