#26 『ロコモティブシンドローム』って何?
山形村に整形外科の無床診療所を開院して4年余りが経過しました。山形村の人口は約8,500人で通院されている患者さんは、街場の整形外科クリニックと比べると元気な後期高齢者が圧倒的に多いという印象を持っています。農業を営んでいる方も多く、高齢になっても元気に仕事を続けることが生き甲斐になるのです。超高齢化社会に入ったわが国では医療の目標は生存寿命の延長ではなく、健康寿命の延伸に向かっています。ことさら「健康寿命」という言葉が使われるような時代になってきましたが、自然界では動物が何らかの理由で自分の足で移動できなくなるということは餌を捕る事ができなくなることだから「生きていけない」という事を意味します。自分の脚でしっかりと身体を支えて移動ができる事こそ動物として生きる要件といえるのです。
1.定義 ロコモティブとは英語で「運動の」という意味です。骨、関節、筋・神経など、身体の運動に関わる器官を運動器と呼びます。そして、運動器の機能が衰えてきている状態を「運動器症候群」、英語でロコモティブシンドロームと呼びます。
2.ロコモの原因
大きく分けて、「運動器自体の疾患」と、「加齢による運動器 機能不全」があります。
1)運動器自体の疾患(筋骨格運動器系)
加齢に伴う、様々な運動器疾患。たとえば変形性関節症、骨粗鬆症に伴う円背、易骨折性、腰部脊柱管狭窄症など。あるいは関節リウマチなどでは、痛み、関節可動域制限、筋力低下、麻痺や骨折などにより、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたします。
2)加齢による運動器機能不全
加齢により、身体機能は衰えます。筋力低下、持久力低下、反応時間延長、運動速度の低下、 巧緻性低下、深部感覚低下、バランス能力低下などがあげられます。「閉じこもり」などで、運動不足になると、これらの「筋力」や「バランス能力の低下」などと、相まって「運動機能の低下」が起こり、容易に転倒しやすくなります。
3.ロコモの代表的な運動器疾患
1)変形性膝関節症
関節の軟骨が変性し、摩耗する疾患で、O脚変形がみられたり、可動域制限を来したりして正座が困難で起居動作や階段昇降が辛いといった歩行障害をもたらします。
2)腰部脊柱管狭窄症
脳に続く脊髄(神経組織)は頭蓋骨の下にある背骨の中を通って頸から腰仙椎まで繋がっています。その通路を脊柱管と呼びます。 腰部で脊柱管を構成している椎間板や椎間関節に加齢と共に変化が生じるとこの脊柱管が狭くなり、中を通る神経組織が圧迫せれて腰、お尻や下肢のしびれや痛みが生じて歩行障害が生じます。
3)骨粗鬆症
骨粗鬆症は骨の量が減少したり質が低下したりして骨折の危険性が高くなる状態をいいます。そして骨粗鬆症では骨折が起きることが問題です。特に脊椎の圧迫骨折や大腿骨の付け根の骨折は頻度が高く寝起き動作や歩行など日常生活動作に支障を来すことは必発です。高齢者では臥床時間も多くなると、肺炎や床ずれなどの合併症のリスクも高くなり、介護度が重度になるばかりではなく生命予後の悪化にもつながります。
4.ロコモは予防が肝要
例えば自動車は走ってこそ価値があり、いくら高級車といえども乗らずに飾っておくだけでは意味がありません。ただ劣化を招くだけです。こまめに手入れをしながら上手に長く乗ってこそ価値があるのです。人の身体も同じことで、身体機能は20才台でピークを過ぎれば加齢と共に衰えはじめ、意識して動かさなければ動けなくなって要介護状態になってしまします。
1)ロコチェック
自分がロコモかどうかに気づくための指標として提唱された7つの「ロコチェック」をしてみましょう。
①片脚立ちで靴下がはけない
②家のなかでつまずいたりすべったりする
③階段をのぼるのに手すりが必要である
④横断歩道を青信号で渡りきれない
⑤15分くらい続けて歩けない
⑥2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
⑦家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
★上記の「ロコチェック」で一つでも当てはまるものがあるとロコモの可能性があります。また、最近急に悪くなったり、痛みがあったりする場合は医療機関を受診する事をおすすめします。
2)ロコトレ
ロコトレはロコモの予防や改善するためのトレーニングのことですが、運動器を鍛える(トレーニングする)基本的な目標を「自分の足でトイレに行って用をたすことができること」と具体化して考えればよいと思います。トイレまで歩いて便座に座るために必要な運動能力とは、1.バランス良く左右の足を交互に前に出して目的のトイレまで移動して、2.便座にそっと腰掛ける、という一連の動作ができるということです。すなわち、『開眼片足立ち』と『スクワット』の2つです(図2)。
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ロコモーショントレーニングは介護予防対策の他、健康維持・増進に有用です。多くの専門家による各種運動法が考按されています。パンフレットにして提供されているものもあります。それらを参考にしてロコモを予防して自分の足腰で生活できる身体を作りましょう。