診療ノート

#24 禁煙の薬物治療について

【タバコの依存性】

喫煙はご本人だけでなく周囲の人にも健康影響を及ぼします。それでも「体に悪いのはわかっているけどやめられない」のは、タバコの煙に含まれるニコチンが原因です。禁煙補助薬による治療は、この「ニコチン依存症」を軽減させることで禁煙の成功率を高める治療法です。タバコが嫌いになる薬ではありませんが、何も使わない場合の2~3倍の禁煙効果が期待できます。

【軽いタバコや本数を減らすことの効果は?】

禁煙を目的に、軽いたばこに変えたり本数を減らしたりすることは効果があるでしょうか。少しずつタバコの本数を減らしていって禁煙する方法は確かに楽にやめられそうな気がします。しかし、一気に禁煙する方法に比べ失敗に終わる確率が大きいのです。健康リスクも思ったほど軽くなりません。したがって、禁煙の薬物治療では一気に禁煙する方法を行うことになっています。どうせならタバコへの未練を捨てて一気に禁煙する方法にチャレンジしましょう。

【禁煙補助薬による治療】

現在わが国で使用可能な禁煙補助薬には、ニコチン製剤(パッチ、ガム)と内服の禁煙補助薬(バレニクリン)があります。このうち、ニコチンガムと低容量のニコチンパッチは一般用医薬品(OTC)として薬局で購入できますが、高容量のニコチンパッチと内服薬については医師の処方(保険診療ないし自由診療)が必要です。

【ニコチン代替療法】

ニコチン代替療法は、禁煙時のニコチン離脱症状(禁断症状:タバコが吸いたい、イライラする、頭痛、体がだるい、眠いなど)を軽くするため、ニコチンを一時的に補充して禁煙しやすくする治療です。現在わが国で使用可能なニコチン製剤にはガムとパッチがあります。

注意点として、妊娠期、授乳期、重い心臓病(3か月以内に心筋梗塞を起こした人、重い狭心症や重い不整脈など)と診断された人、急性期脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)と診断された人などではこの治療薬は使えません。また、この本剤を使用中にタバコは吸うこともよくありません。

http://www.nicotinell.jp/p_otc/site/pdf/patch_caution.pdf

A 自分で禁煙する方法

1日の本数が比較的少ない人(ニコチン依存度が低い人)や、保険診療の適応基準に当てはまらない人(後述、特に本数×年数が200以下の人など)では、市販のニコチン製剤を使ってチャレンジすることをお勧めします。

1.ニコチンガム

ニコチンガム1個には、たばこ1本程度(約2mg)のニコチンが含まれています。保険はききませんが薬局・薬店で購入できます(一個100円程度)。禁煙後、タバコが吸いたくなった時に代わりにこのガムを使用します。次第に使用量を減らしていき2~3か月で終了する治療です。喫煙欲求に対して即効性があり、自分で使用量を調節できるのでチャレンジしやすい治療といえます。使用量の目安としては、1日の本数が20本以下の場合1日4~6個で開始し、2週間ごとに漸減していきます。
http://www.nicorette-j.com/product/

使用上の注意として、噛みすぎるとニコチンが一気に吸収されて吐き気や胸やけが出ることがあります。購入する際に、噛み方のコツなどをよく指導してもらうことが大切です。

http://www.nicorette-j.com/product/gum_use.html

2.ニコチンパッチ

http://www.nicotinell.jp/p_otc/p_product/patch.html

薬局などで市販されているニコチンパッチは比較的低容量のパッチです(1枚約400円)。皮膚に貼ることでニコチンが少しずつ体内に吸収され、ニコチン切れによる症状を和らげる効果が期待できます。喫煙時の血中ニコチン量より少ない量で1日中一定に維持されるので、ニコチンガムのような即効性は期待できませんが使用法は簡単です。主要な副作用である皮膚のかぶれを予防するため、毎日貼る場所を変えることが大切です。市販薬の場合、標準的には1~2か月をかけて2段階(中容量→小容量)に漸減して治療を終了します。

B 禁煙外来で禁煙する方法

自分だけでうまく禁煙できない場合には、禁煙外来を利用しましょう。現在、外来における禁煙治療には保険診療と自由診療があります。2006年から禁煙治療に保険が使えるようになりましたが、それにはいくつかの条件が必要です。

まず、保険の使える医療機関が限られていること。2014年8月現在、長野県で247、松本市で37、塩尻市で8施設となっています。日本禁煙学会のホームページで医療機関のリストが閲覧できます。

http://www.nosmoke55.jp/nicotine/clinic.html

次に、患者さんの条件ですが、

1.ニコチン依存症のスクリーニングテスト(問診票)で5点以上(詳しくはhttp://sugu-kinen.jp/success/tds.htmlをご覧ください)

2.1日の平均本数×喫煙年数が200以上(たとえば1日20本だと10年間、10本だと20年間の喫煙歴があることが必要)、3.禁煙の意志があり文書で禁煙治療に同意する、を満たすことが必要です。満たさない場合は自由診療(自費)となります。

費用は12週間の保険治療の場合、内服薬で約19,000円(自由診療で約63,000円)、パッチで約12,000円(自由診療で約43,000円)です。禁煙補助薬としては、ニコチンパッチ(高容量も含む)、内服の禁煙補助薬(バレニクリン)のどちらかが選択できます。副作用などのために途中でもう一方の薬剤に変更することもできます。12週間の治療期間のうちに5回の通院が保険で認められています。

1.ニコチンパッチ(高容量も含む)による治療

市販のものより高容量のパッチから治療が受けられます。方法は前述と変わりありませんが、市販のものが1枚で起床時から就寝時まで16時間の使用である一方、保険診療では1枚24時間の使用が可能です。標準的には8週間の3段階漸減療法(大容量→中容量→小容量)を行います。

2.内服薬(バレニクリン)による治療

バレニクリンはニコチンを含まない内服薬で、吸いたい気持ちを和らげる効果とともに、タバコがおいしく感じなくなる効果も期待できます。最初の1週間は喫煙しながら内服を開始し2週目から禁煙をスタートするという方法なので、ニコチン製剤に比べて禁煙が導入しやすいといった利点もあります。標準的には12週間の治療で終了します。

【内服薬(バレニクリン)の注意事項】

バレニクリンとの関連性が懸念されてきたうつ病、自殺、けいれん、虚血性心疾患などについては、現時点で関連性を認めるエビデンスは得られていません。ただ、抑うつ症状は禁煙するだけで起こる可能性もあり、禁煙治療の際には注意が必要です。

比較的多い副作用としては、嘔気、腹部膨満感、便秘などの消化器症状、変な夢をみる、夜よく目が覚めるなどの不眠症状です。嘔気の予防のため、必ず食後に服用することが大切です。また、内服薬の減量やニコチンパッチへの変更でも対応できます。

妊娠時・授乳期については、禁忌にはなっていませんが安全に使用できる根拠は現時点では不十分です。ニコチン製剤と同様、妊娠授乳期における使用は避けてください。

【バレニクリン服用中の運転禁止】

バレニクリンの服用後に、めまい、眠気、意識障害の症状があらわれ、自動車事故に至った報告があるため、バレニクリンの治療中は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は禁止されています。運転禁止が不可能な場合にはニコチンパッチを選択することになります。

【禁煙が成功しても…】

禁煙が一旦成功しても、1年間のうちに約半数の人は再喫煙してしまうとの報告もあります。禁煙できても、決してタバコが吸えない体になったわけではありません。タバコがなくてもいられる体になっただけですので油断は禁物です。「つい1本」には極力注意しましょう。吸いたくなった時には、少し深呼吸して、かつて禁煙した時の動機や気持ちをもう一度思い出して手を出さないよう注意しましょう。