診療ノート

#22 いわゆる「発達障害」

最近マスコミで大人の発達障害がよく取り上げられています。特に知的には平均的かそれ以上のものを持ちながら、人間関係がうまくいかない、コミュニケーションがうまく取れない、場の雰囲気が読めない等、社会人として生きていくうえで必要なスキルが身についていないために問題になっている人達のことです。

これらのうち主なものは注意欠陥・多動性障害(ADHD; Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)とアスペルガー症候群(Asperger’s Syndrome:ただし、アメリカの診断基準 DSM-5ではこの名称を使わなくなり、自閉症スペクトラム症 Autism Spectrum Disorder と診断されることになりました)です。今回はこのうちアスペルガー症候群についてお話します。

アスペルガー症候群の特徴は、脳機能のかたよりから、行動や考え方に独特の癖があり、雰囲気や空気を読めないため、その場にそぐわない言動・行動をとることが特徴です。

1. 社会性の問題

人間関係を築くのが苦手です。人とどう接すればよいのか、人前でどう振る舞えばよいのか、集団・組織においては何が大切かなど、普通であれば成長の過程で自然と身につくはずの社会性に欠ける傾向にあります。

  • ア)雰囲気や空気が読めないためその場にそぐわない言動をとる
  • イ)暗黙のルールがわからない
  • ウ)他人と協調した行動がとれない
  • エ)マナーや社会常識が身についていない

2. コミュニケーションの問題

自分の言いたいことだけを話して相手の話には興味や関心を示さないため、言葉のキャッチボールが成立しません。

  • ア)人の表情や態度、身振りなどから相手の気持ちがくみ取れない
  • イ)話が回りくどく、細部にこだわる傾向が強い
  • ウ)話があちこちに飛ぶ
  • エ)含みのある言葉や裏の意味がわからない、冗談やユーモアが通じない

3. 想像力の問題

想像力に乏しいため、新しいことには不安が強い一方で、自分の興味があることには強いこだわりを持ち、極端にのめり込んでマニアックにやり続ける傾向にあります。

  • ア)興味や話題の範囲が狭く限られる
  • イ)特定の習慣や手順、規則、規律などに強くこだわる
  • ウ)変更や変化、予期せぬことを極端に嫌う、突然予定を変えられるとパニックを起こす
  • エ)頑固な思考パターンで融通が利かない、自分のやり方にこだわり妥協しない
  • オ)白か黒、全か無かの二者択一、完璧主義の思考になりやすい

4. 感覚過敏・過鈍性の問題

聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚のどれかに敏感だったり逆に鈍感だったり、温度や気圧の変化に過剰に反応したりします。

  • ア)味覚、嗅覚に敏感に反応するため、食べ物の好き嫌いが激しい
  • イ)人から触られることに対して異常に敏感
  • ウ)室内の音や光、目からの些細な刺激にも敏感に反応して集中力を欠いてしまう

現在は、小中学校に特別支援学級などがあって、発達障害を子供のうちから早めにみつけて対応するようになってきましたが、まだ十分機能しているとはいえません。この人たちは、子供時代から頑固で聞き分けのない子、整理整頓ができなくて物をなくしたり忘れ物が多いダメな子、として両親からも学校でも叱責を受けることが多いために(体罰や折檻の対象にもなる)、自尊心が育たずに、孤立したりいじめにあったりします。

知的なレベルが高く学業成績が良い場合、学校時代は大きな問題もなく通り過ぎ、名門大学を出て一流企業に就職したり、高い資格を取得して仕事をしていたりしますが、他人の気持ちを理解できないために問題が発生することがあります。ハラスメント管理職、体罰・暴言で問題になる教師やスポーツ指導者、非常識な問題発言をしてしまう裁判官、弁護士や医師(ドクハラ)、なども背景に発達障害が絡んでいる場合があります。

一方、強いこだわりや執念深さを生かして様々な分野で活躍している人たちがいます。特に、物理・化学・数学などの研究者、芸術家、文学者として世界的な活躍や賞を受賞した人たちの中にアスペルガー症候群の傾向を持った人たちが大勢いるのも事実です。エジソン、アインシュタイン、野口英世、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツetc. 従って、人類の文明が発達してきたのは、こういった人たちの発明や発見があったからで、アスペルガーの人たちがいなければいまだに人類は石器時代のままだったかもしれないとも言われています。


さて、それではこういった人たちにはどう対応すべきでしょうか?

  1. 複数の仕事を同時に与えない‥優先順位をつけられない
  2. ルールを明確にして一貫した対応をとる・・・場当たり的な対応は混乱させる
  3. 伝えるべきことはできるだけ文書化する・・・聞き取り能力が弱く、耳からの情報が入りにくい、視覚的サインを用いる
  4. あいまいな表現は避け、具体的に伝える・・・抽象的な表現、暗黙のルールは通じない
  5. 集中力に欠ける場合は仕事の適正を再検討する‥興味・関心が持てないことには集中できない
  6. 指導や注意はできるだけ穏やかに行う‥・・・低い自尊感情を刺激して混乱する、自傷行為・自暴自棄に陥ることもある
  7. パニックになったら一人だけになれる静かな場所に移す
  8. 音や光などの刺激を減らす工夫・・・刺激に敏感で仕事に集中できなくなる
  9. 困った時の相談役を決めておく・・・何でも相談できる人が必要
  10. 孤立させない‥あいさつなど気軽に声をかけることが必要だが、お付き合いの無理強いはしない

実際、発達障害の傾向があっても社会に適応している人、かなりの業績を上げている人はたくさんいます。大切なことは短所ばかりに目を向けたレッテル貼りをせず、長所に目を向けて対応することです。