診療ノート

#49 メニエール病

― メニエール病 — 
かつてはめまいの代名詞のように使われていたこの病名、いまだにめまいを繰り返しているだけでこの病名をつけられたりしていないでしょうか。
耳鼻咽喉科では診断基準が改変され、治療の考え方も変わってきていますので簡単にご説明させていただきたいと思います。

臨床像
メニエール病の初発症状は様々。難聴や耳鳴などの蝸牛症状が先行し、後にめまい発作が加わるものが36~65%。逆にめまい症状が先行するものが5~15%、両症状がほぼ同時に現れるものが30~50%と報告される。両側の難聴が出現する両側例の頻度は1.6~73%と報告に幅がある。
蝸牛症状は主にめまいの発作前または発作と同時に出現・増悪し、めまいの軽減とともに軽快することが多い。長期的には発作を繰り返し、難聴は徐々に増悪する。

疫学
女性患者が約6割を占める。既婚者が多い。職業的には専門技術職に多い。几帳面で神経質な性格が多い。遺伝子は特定されていないが5~10%で家系内発症がある。
発症誘因としてストレス、過労、睡眠不足が多い。気圧の低下するタイミングでの発作が多い。

病態
メニエール病の病態の本質は内リンパ水腫とされる。これはメニエール病患者の蝸牛の病理学的研究によって明らかになったことであるが、従来は聴覚症状、前庭症状とそれに関する機能検査によって推定されてきた。近年、画像診断技術の進歩によってGd造影剤と3T(テスラ)のMRIによって視覚的に内リンパ水腫の確認が可能となった。

診断(2017年めまい学会基準)
A. 症状
1. めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分程度から数時間程度。
2. めまい発作に伴って難聴、耳鳴、耳閉塞感などの聴覚症状が変動する。
3. 第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。
B. 検査所見
1. 聴力レベルの変動がある。
2. 眼振所見などがある。
3. 神経学的に第Ⅷ脳神経以外の異常がない。
4. その他の疾患の除外ができる。
5. 造影MRIにて内リンパ水腫を認める。

メニエール病確定診断例 :A3項目を満たし、B5項目を満たすもの
メニエール病確実例 :A3項目を満たし、B1~4項目を満たすもの
メニエール病疑い例 :A3項目を満たすもの

治療
薬物療法
・浸透圧利尿薬
・抗めまい薬
・制吐薬
・ステロイド
・抗不安薬、抗うつ薬
・漢方薬

水分摂取療法
近年、メニエール病の発症に抗利尿ホルモン(AVP)が関係することが指摘されている。ストレスや脱水がAVPの血中濃度上昇を引き起こすので、能動的に水分摂取を促すことでめまい症状や聴力予後が有意に改善するとされる。

生活指導・心理療法
疫学にもあるように患者は神経質、几帳面、完璧主義の場合が多く、これらの性格はストレスを敏感に感じやすいと考えられる。このような生活行動や気質を改善し、ストレスを軽減するために生活指導を行う。さらにストレスから不安症やうつを発症している場合には精神面へのアプローチとして薬物療法や心理療法などが必要とされる。

中耳加圧治療
中耳加圧装置によって経外耳道で中耳を加圧する。中耳内圧の上昇により迷路血管床のうっ血が解除され、内リンパ循環が改善することによる治療効果があるとされる。

手術療法
・内リンパ嚢開放術
・ゲンタマイシン鼓室内注入術
・前庭神経切断術

まとめ
メニエール病の診断は、より客観性の高いMRIによる画像診断が可能となり、治療は従来の薬物療法にストレス軽減を目的とした生活指導や水分摂取療法などが加わってきました。
長期的には難聴の進行も起こすので、耳鼻咽喉科での診断、治療そしてフォローが必要な疾患と思われます。

参考文献
ENTONI No.234 メニエール病 2019.7