診療ノート

#58 訪問看護師がエコーを行うオンライン診療

私が現在桔梗ヶ原病院で行っている訪問診療の内容を第 134 回中信医学会で発表させて頂いた、「訪問看護師が行うエコー検査(POCUS)の有用性とその普及活動」の内容を基にお話しさせて頂きます。

私はもともと東北大学医学部を卒業した後泌尿器科学教室に入局し、泌尿器科専門医として大学病院、そののち仙台市内の KKR 系列病院で腹腔鏡手術、尿路内視鏡手術、尿路結石治療、骨盤臓器脱手術、そして現在も専門としている超音波診断を生業として活動しておりました。ただ自分の心の奥底には、毎日のように地元岩手県の無医村や僻地医療のニュースを TV で見聞していた中学時代に初めて将来医者になりたいと思いはじめた頃から脈々と、家庭医として病院へも来られない方々のお宅を訪問して歩く“在宅医”を自分の最後の仕事としたいという気持ちがどうしても捨てきれず、自分の年齢が“60 歳”の還暦を迎えた時を境に泌尿器科医と言う外科医から、在宅医という家庭医に方向転換することを決断しそして実行に移しました。その結果、一緒に移住を承諾してくれた家族と共に全く縁もゆかりもないこの長野に 8 年前に移住してまいりました。長野で最初の 4 年間を大北地区池田町にあります JA 長野厚生連北アルプス医療センターあずみ病院在宅支援科で新米在宅医として修業のような貴重な経験を経て 4 年前に現在の桔梗ヶ原病院へ転勤して今に至ります。

現在桔梗ヶ原病院では、週1回半日泌尿器科外来を担当する以外は敬仁会および平成会関連の老健・グループホーム等の高齢者施設5か所の嘱託医と、主に塩尻市内の在宅診療を担当しております。そのなかで私が特に力を注いでおりますのが訪問看護師へのエコーの教育・普及です。特にコロナ禍以降、国もオンライン診療に積極的で確かに圧倒的に数の足りない現在の在宅医数で特に僻地や離島の訪問診療を十分に賄うのは不可能であり、特に在宅利用者の急変時にはまだ医師よりは数のいる訪問看護師にまずは在宅へ行ってもらというのが現実的になりますので、そこでオンライン診療が十分に活躍するであろうことは想像に難くありません。私が先日の中信医学会で発表した内容は、そのオンライン診療に訪問看護師にエコー検査をしてもらうという内容で、長野県医学会雑誌にも掲載されますのでここでは簡単に説明させて頂きます。
在宅では多くの症状に遭遇しその原因疾患としては図 1 に上げたようなものが考えられます。

図 1

最近では図 2 に代表的なものを上げましたが各社から携帯エコーが発売されておりわれわれ在宅医は手軽にベッドサイドでエコー検査(POCUS:Point of Care Ultrassound を行っています(図 3)。

図 2
図 3

しかしエコー検査は医師以外で可能な検査であり当然訪問看護師が行っても保険請求も可能と考えられます(表 1)。しかし実際の医療現場、特に訪問診療現場で看護師がエコー検査を行う事は珍しいと思われます。その理由としてはいくつかの事が考えられますが、いずれにしても看護師さんたちにとってエコー検査はハードルの高いものであり、あえて忙しい看護業務の中でエコー検査を行う事の意義や有用性を実感されたことがないのでは?と私は感じております。それらの問題を解決し出来るだけ訪問看護師にエコー検査を施行して頂くために、そして D to P with N のオンライン診療現場で訪問看護師がエコー検査を施行した場合にそれを確実に医療収益にも反映させるためのシステムの構築を考えております。

表 1
表 2

表 2 に当院の訪問看護ステーションの訪問看護師に行っているエコー検査(POCUS)教育の Off-JT 手順を表 2 に示します。エコー基礎からさらには男性スタッフをモデルとして、初級として膀胱と直腸のハンズオン実習を行っています。さらに中級として腹部(肝・胆・大腸)、肺、褥瘡、嚥下などを行いますが、この場合は実際の症例に施行する直前に、私があらかじめ用意した病態別の検査指導書にそって現場でハンズオンを行いながら教育するようにしています。

その後 OJT では、まずは実際の症例で超音波専門医である私自身が施行してみせ、その上で訪問看護師に実際のプローブを持たせるという手順で行っております。高齢者施設回診時に同行する訪問看護師にハンズオンで教育を行うようにしています。今後はオンライン診療の D to Pwith N での POCUS の際に、非常に軽量で高画質・手振れ防止等の機能を備えたウェアブルカメラで訪問先から離れた病院にいる私へ画像を送信してもらいながらの教育・指導を積極的に行っていきたいと考えております。現在私が実現を目指しているエコー検査を導入したオンライン診療の概略図を図4にお示しします。

以上、現在私が訪問看護師に指導し普及を目指している在宅でのエコー検査(POCUS)についてお話しさせて頂きました。

図 4

多忙な訪問介護の中で必要に応じて POCUS 行うことは、時に思いがけず重要な情報をもたらしてくれることもあり、今後も出来るだけ多くの訪問看護師に POCUS の有用性と必要性、その活用方法を機会あるごとに教育していきたいと考えております。

参考文献

1) 千葉 裕.1 章 POCUS を知る・使う.在宅医療での活用法.検査と技術.2024:52,174-180.
2) 千葉 裕.在宅医療現場での携帯エコーの活用,POCUS の有用性.超音波検査技術.2021:46,354-362.